奥多摩湖とブラックバス

それはまだ名古屋に転勤で住んでいた時のこと。

会社のサマーバカンスを利用して、東京の実家に帰省する途中だった。

途中までは高速道路を走っていたが、ルートを考えて、突然ちょっと?遠回りをしようと高速を降りて一般的道で帰ることにした。

そして何故かその時は、途中からシュープリームスの『You Can’t Hurry Love』を聴きたくなり、それをエンドレスで繰り返し聴いてノリノリで走っていた。

途中奥多摩湖の周遊道路を走って、休憩がてら小さなお店を見つけて、そこで休憩することにした。

しかし良く見ると、その奥には流石奥多摩湖と言える、非常に綺麗な場所があった。

慌てて車を降りて、持って来ていたバス釣りのタックル一式を降ろそうとしていた時だった。

やってしまった。

アコードワゴンの後ろから、ロッドを出してハッチバックのドアを閉めた時、『バキ』と音がして、なんてことであろう、フェンウィックのベイトロッドをハッチバックのドアに挟んだまま閉めてしまったのだ。

2ピースロッドの上半分は完全にぐちゃぐちゃになってしまった。

しかし、それより釣りたい意欲の方が強く、それは車に残して、湖へと向かう。

お店を通り過ぎて湖に出ると、透き通った奥多摩湖の水面に来た。

これだけのクリアウォーターの場合、釣り人の姿はブラックバスから丸見えなのは分かっている。

なので、慎重に腰を低くして、忍び足で湖に近づいて行った。

すると驚愕のバスに出会う。

推定60センチはあるバスが、日の当たる水中をゆっくりと泳いでいる。

それも1匹ではない。

群れを作り何匹もいるのだ。

これには流石に驚き、一旦引き下がり、どうやって釣ろうかと考えた。

相手は見えバス、しかも60センチがウヨウヨ。

あちらからは自分は丸見え。

そこで水面から見えない場所からルアーをキャスト。

水面は見えないので、バスが居た場所をイメージしながらゆっくりと引いて来た。

しかし相手はモンスター。老獪であるのは間違いない。

あらゆる持ち合わせのルアーを投げてもアタリすらない。

季節は夏の昼下がり。

自分の中には、この状況下で対応する術は持ち合わせて無かった。

こうなったら突撃だと、あえて見えてるバスに近づき、ソフトルアーで誘って見る。

多少興味は示すもののすぐに見切られてしまう。

こうなると何もやりようが無くなり、しばしバスを眺めていた。

まるで軍監である。

そして流入河川があったため、試しにやってみようと、メガバスの社長曰くの通称『マルキン』という、3センチ程度のルアーをやや上流から流してみた。

しかし、湖面のところに流木が溜まっており、そこを通過することが出来ない。

ソフトルアーでも試してみたが、流木は通過するものの、今度はラインが流木に引っ掛かかり、湖面の奥まで辿りつかない。

色々試行錯誤したが、結局店の閉店時間となり、駐車場も閉まるため、やむなくそこで断念した。

しかし、あれほどの軍艦のようなバスの群れを見たのは初めてだった。

以前奥多摩湖に来た時、遠くから見たことはあったが、間近でみたのは初めてだった。

奥多摩湖にはマル秘スポットがあることは知っていたが、それがどこかは分からず、釣れたことはなかった。

しかし、ベイトロッドを失ったため、例え釣れたとしても、当時の自分の腕で60アップのバスを、スピニングタックル&8ポンドでも釣れることは出来なかったと思う。

こうして奥多摩湖を後にして家路を急いだ。

しかしあれほどの巨体で美しいバス。

今後果たしてあのようなバスに出会うことはあるのだろうか。

そして、釣るチャンスは訪れるとのだろうか。

とある夏休みの思い出の1ページとなった。