バスと自然と託す人 実話編

その夜、明日に備えてタックルの準備をしていた。

今回はいつもと違って会社の別部署にいる方を親子共々一緒に案内することになっている。

バスフィッシングは何度かしたことがあるらしいが、一度も釣れたことはないという。

あのバスを釣った時のなんとも言えない楽しさを味あわせてあげたい。

でかバスを釣り上げた時の2人の笑顔を思い浮かべながらいつもより少し遅くまで準備していた。

朝は目覚ましが鳴る前に自然と3時に目覚めた。いつもの迷彩Tシャツに着替えてタックルを持って駐車場へ向かう

いつものお気に入りのロッド5本とルアーなどのタックル一式を車に積み込む。

いつものバス釣りの時の光景だ。

ただ一つ違うのは、今回のタックルは案内することを意識してセレクトしていた。

会社の〇〇さんの子供さんが、ひょんなことからバス釣りしてはいたものの一度も釣ったことがないことを聞き、今回案内することになった。

〇〇さん親子を迎えに行く道中、今日はどこのポイントに最初に行くか考えている。

道路にはまだ車は殆ど走っていない。

あのバスを釣った時の楽しさをなんとか味あわせてあげたいので、確実に釣れる2つのポイントに絞り込んだ。

途中いつものコンビニに寄り、お決まりのハムサンドとボルビックを買う。

最初はまずはあの場所にしよう。

幹線道路から脇道へ入り、少し狭い道へと入って行く。

既に〇〇さん親子は家の外で待っていた。

車の中で大きなバスを釣った時のなんとも言えない楽しさを話しながらポイントへ向かった。

しばらくすると細い道に入り、ゆっくりと田んぼ道を進んで行く。

今日の最初のポイントである大きな水門へ到着。

ポイントのすぐ目の前に車を止めてタックルをセットする。

ここは水の底に様々な障害物が沈んでいるため、それを回避しながら釣りをするのは難しい。

また、岸から水面までの高さは1.5m以上あるので、バスを釣り上げるには本来ネットを使うが、メガバスの伊東社長がでかバスを水面から抜き上げる映像を何度も観ているうちに、ここで釣る50アップもネット無しで抜き上げていた。

そんな場所なので、確実に釣らせてあげることも考え併せて、実績のあるバンピーワームのテキサスリグでいくことにした。ロッドはメガバスのF6-67X、リールはカルカッタ100、ラインはフロロの20ポンドだ。

しかし、子供さんの〇〇君は自分の竿とリールで釣ってみたいという。

この時しっかりタックルをチェックしてあげればよかったが、ある程度この辺りの経験があるため大丈夫だとタカをくくっていた。

ここは超ピンポイントでほぼ100発100中で釣れることが分かってる場所なので、まずは釣り方を説明した。

「まずは〇〇君からいこうか。

必ず釣れるはずだから、良く聞いててね。

あそこの水門の真ん中からやや左側のところにルアーを投げて、着水してルアーが底に着いたら、すんごいゆっくりリールを巻い来て。このくらいの速さ。

3・4回リールを巻いたらそうだな…5秒くらいポーズ(一旦止める)を入れてまた3・4回巻いてを繰り返してみて。

そしてね、同じ感じで岸側まで引いてきて、あそこ…ちょっと来て」

超ピンポイントでアタリが出る場所を目視で確認させる。

「ここね。ルアーが落ちた場所から引いてきて、あの辺までルアーが来たら岸際ギリギリを引いてくる感じで、そのまま引いてきたら、この草を目印にして、この真下辺りまでルアーが来たら何か障害物に当たるので、当たったら一旦止めてね。

そしてロッドをスーっと少し上にあげて引くと障害物に引っかかって、更に少し力を入れてロッドを上にあげると、スッと障害物から外れる感覚が分かるはず。

そしたら今度はルアーを動かさずに、しばらく止めてみて。そうすると多分『コン』っていう小さいけどハッキリしたアタリがあるから、そしたらすぐ即アワセしてね。

フッキングは大きく体が反るくらいの勢いで結構強めで大丈夫だから、しっかりフッキングしてね」

〇〇君がルアーをキャスト。

言われた通りにゆっくりリールを巻いてルアーを引いてくる。

そして教えた超ピンポイントの場所にルアーが来て間もなく、〇〇君が無言でフッキング。

やはり来た。

初めてのバスの引きに少し戸惑いながからも、リールをグイグイ巻いている。

小学生ながら、バスの引きに余り翻弄されることはない。

そして言葉をかけようと思っていたら、そのままリールを巻いてバスを水面から引き上げてしまった。

「あっ!!!それやっちゃうと…」

言葉より先にラインが切れてバスが水面に落ちてしまった。

(いや~、しまったな、まさかそのまま抜きあげてしまうとは…)

せっかく初めてバスを釣ったのに、しかも結構大きかったのにと、残念そうな顔をしている。

気を取り直して、場所的なこともあり、〇〇君が持って来たタックルではこの場所は厳しいことを伝えて、自分のタックルを使うように勧めた。

そして、同じアプローチで何度かピンポイントにルアーを通していると、再び無言でフッキング。

今度は慎重にリールを巻くようにアドバイスしながら、教えた通りに最後は片手を竿から50センチくらいのところで支えてゆっくりバスを抜き上げることに成功した。

「やった~!!」

嬉しそうに飛び跳ねて笑顔で〇〇さんと抱き合っている。

すぐに計測。48センチ。ほぼこのピンポイントの場所で釣れるバスのアベレージサイズだ。

「良かったね~!初バスおめでとう!」

バスを片手で持ち1枚。

両手で持ち1枚。

その後親子で1枚。

ここには静かにリリースするような場所はないので、ピンポイントから離れた場所でなるべく水面までバスを近づけてリリースした。

「凄いね!!何で言われた通りにしたら釣れたの?僕なんか今まで全然釣れなかったのに…」

「う~ん…端的に言うと、経験と慣れなんだけど、要はあそこに沈んでる障害物に、何故かいつも必ずバスがついていて、障害物に引っかかって外れた後に必ず食ってくるんだよ。

キーワードはシェード(日陰)と障害物なんだけどね。」

「そしてこれは全く分からないんだけど、何故か釣れるのはこのルアーでこの色なんだ。

しかもこれまた不可解なのは、必ず釣れるようにするには、ラインを引いてくるコースが決まっててね。

さっきルアーを着水させた所から、さっきの角度で岸側までルアーをズル引き&ポーズで引いてきて、そこから岸ギリギリを引いて来ないと食って来ないんだよ。

この場所は散々通って散々ルアーを投げたし、他の人がここでやっている時も何回も見てるけど、釣れているのは俺くらいでさ。

1人だけ釣ってるのを見たことがあるけど、この本当のピンポイントのピンポイントの存在は多分誰も知らないと思う。

まぁ最近は俺以外誰も来ないくらいだなぁ。

通い続けて色々投げて、必ず釣れるのがこのルアーでこのコースで引いてくる、このルアーの動かし方ってのが自分の確信」

「ホント不思議で、ルアーを着水させた後、違うコースで引いてくるとアタリが出ないんだよ。同じズル引き&ポーズでやってるにも関わらずにね」

「まぁいわばシークレットを公開したってことよ。

もう後2週間ないからね。大切にしてよ」

「そうだよね…寂しくなるよね。

引っ越してももし来れる時があったら来てね。ちょっと遠いけど」

2週間後に会社の異動で引っ越さなければならない。

4年のあいだに通って投げ続けて見つけ出した必ず釣れるハニースポット。

もう一方のハニースポットと合わせて53センチを筆頭に、50アップは結局4本。

釣れるバスの平均サイズは感覚的には48センチで、45アップ以上は一体何本釣り上げたのか分からない程釣れた。

週2本ペースで1カ月で8本。2年程前からハニースポット状態。

夏だけの3ヶ月期間限定。

50本以上は釣れているだろうか。

よく釣らせてもらったものだと感慨深い。

「……ここのバスは特に大きいんだよ。

特に関東なんかはそうだけど、大抵の場合、釣れるのは30センチがいいとこで、40センチでも40アップって喜ぶくらいなんだけど、ここの平均は45センチ以上かな」

「へ~凄いんだね、ここのバスって」

「まぁ、ただし『釣れれば』…なんだけど」

そんな話を車内でしながら昼食を済ませて、もう一つのハニースポットへ移動。

もう昼過ぎだが、ここも要はシェードと障害物パターン。

水門の裏は水面から4m近くの高さがあり、水面にかかる藪下に静かにアプローチする必要がある。投げる距離は2mもないくらいの感じだ。

さほど正確にキャストしなくてもバスは食ってくる。しかもアタリは明確。

ここは勝負が早く、着水してフォール中にラインが横に走ったり、着水後すぐにコン!と強めの当たりがあったり、あっと言う間に釣れてしまう。

フッキングさえしっかりすればまずバレることはない。

タックルは先程使ったF6-67Xとカルカッタ100のタックル。

ルアーもほぼ同じだが、ここはバンピーワームだけでなく、スピンドルワームでも釣れる。

他のワームでも釣れることは確認しているが、必ず釣れることや、もう一つのハニースポットとの兼ね合いもあり、効率的に釣るために、スピンドルワームとバンピーワーム、しかも同じ色を結構大量に購入して釣っている。

流行りのルアーも多少気になるが、釣れ続けているので他を試すことはもうしていない。

ここは今度も〇〇君から釣らせてあげることに。

「ここも不思議な場所でね。俺は来たら必ず最低でも1本は釣れるんだ。でも殆ど誰も来なくてね。

俺以外で釣り上げた人を見たのは親子2人と、1人でふらっと来た人、たまたま水門の表側の柵の外から投げて釣った人…くらいかなぁ」

「ここ自体は結構広域でしょ?そして〇〇君も結構色々場所変えて釣りに来てるけど釣れないよね。」

「色々ランガンしてると陸っぱりで余り釣れている人を見ないんだよね。

まぁ有名ポイントなんてあってないようなものだけど、釣れている人を本当に見かけない。

自分もそうだったから良く分かるけど、一度見つけた釣れるポイントってまた来るでしょ?しかもサイズも48センチとかかなりあるし、太いし」

うんうんとうなづいている。

「そうなると、他の場所に行って釣れないなら、必ず釣れた場所に戻るはずなのに、同じ人に会ったことは一度もないんだよなぁ…。

さっきの場所も、同じ人に会ったことは一度もないんだよね。

考えられるのは、他に釣れる場所を見つけてそこをローテーションしてるとか、ボート釣りしてるとか。

まぁこの地域のバス釣り人口は少ないことも考えられるけど」

「とにかく何で誰も来ないか不思議。こんなにいつも大きいのが釣れるのに。

自分的には図らずも独占状態だからいいんだけどね」

「ふーん…でもいいよね、こんな場所見つけて」

「こんな場所見つけていいよねって、これから貴方達がこのハニースポットを独占するんでしょ?」

「あ、そっか!自分達のスポットだ!」

「俺も初めてこの広範囲の中から釣れる場所を探すのに苦労してさ。

居そうな場所は手を変え品を変えて散々投げたよ。

本当に色々ランガンして、バスやってる人の近くに行ってルアー見たり、同じ場所で同じやり方したり…」

「でも全然釣れなくてね。アタリすらなかったからね。

マジでここ自体、どこに行っても実はバスなんて居ないんじゃないかと錯覚するくらいだったよ。

そして本当に諦めかけていた時に他の場所でたまたま一本釣れてね。

嬉しかったなぁ…48センチのバス。太くてさ。

釣り上げたら、慌ててバスとロッド放り出して車にメジャーとデジカメ取りに行ったんだよなぁ」

「あ、それがさっき話してた初めてのバス?」

「そういうこと……」

「ふーん。そうかぁ……よく考えたらテレビで観てもこんなに大きいのは余り見ないね」

「そうだね…大きさというか長さもそうだけど、太さが凄いんだよね。さっき〇〇君が釣ったのもそうだけど、かなり太い。だから48センチとか言っても、50アップ以上に見えるくらいだよね」

「本当にでかバスだ」

「…そう…デカく見えるし、引きも凄い。本当にまぁこんなのが毎回釣れるんだからまさにハニースポットだよ」

そして、釣り方を教えると、〇〇さん親子は水門裏で、自分は水門表側のスポットで釣り始める。

もう昼は過ぎているので、先行者が仮に居たとすると、そう簡単に釣れるか分からない。

とりあえず自分は浄水施設のシェードになってるところへバンピーワームのテキサスリグで攻めていた。

その後細い川がせき止められる感じのところをスピナーベイトで攻めていると、水門裏から〇〇君の声が聞こえてきた。

「かかったー!!」

予め釣り方は教えたが、ランディングする時は少し難しいので、声をかけるように伝えておいた。

すぐに向かうと教えた通りバスの口だけ水面から出した状態で待っていた。

「オーケー、そのままさっきの感じで、ゆっくりその岸の上に『よいしょ』って感じで静かに置こうか」

言われた通り岸の上にバスを置く。

「やったー!!」

本日2匹目のバスに大喜び。

〇〇さんも嬉しそうだ。

サイズを測るとまたまた48センチ。

太くてずっしり重いバスだ。

すぐに写真を撮る。

バスとメジャーを一緒に一枚。

バスを持って一枚。

親子で一緒に一枚。

その後自分が水門表側で48センチのバスを1本釣り、時間的なこともありここで終了となった。

〇〇さんからも感謝された。

「いや~こんなに釣れて本当に良かった。今まで釣ったことないし、息子も凄い喜んでるし、俺も凄い楽しかったよ。ありがとう」

「いえいえ…もうここに来ることは一生ないかも知れませんし、誰にも託すことなく終わるのも、何というか寂しいというか。受け継いでくれる人がいるので自分としても嬉しいです。

まぁ我々はいつ異動になるか分かりませんし、当面はここでバスフィッシングを楽しんで下さい」

「…ありがとう」

「今日案内させてもらった場所は、実際釣ってもらって分かったと思いますが、本当にハニースポットなので、大切にして頂けたらと思います」

「…分かった」

こうして長いようで短い北陸で過ごした約4年に渡るバスフィッシングの幕を下ろすことになった。

またいつか、この場所に戻って来たい。

この自然の織りなす風景と、バスフィッシングのおかげで最高の思い出を刻むことが出来た。

帰りの車中北陸で過ごした4年間が走馬灯のように頭をよぎり嬉しさと寂しさが入り混じった何とも言えない気持ちが込み上げて来てハンドルを握る手に涙となって落ちていった。