その昔、とある場所に不思議な一帯があった。
そこは小さな川が流れていて、ザリガニや小魚などが沢山とれた。
この川は恐らく田んぼの農業用水路の役割があったのだろう。
このあたり一帯には田んぼがあった。
近くには普段は釣り堀、夏はプールという、今では考えられない珍しい釣り堀兼プールの施設があった。
近くにプールはあるが、混んでいる時など入場制限があったのか、この釣り堀を兼ねたプールを利用していた。
このプールは当然釣り堀の時から水は入れ替えていると思うが、何せ釣り堀も兼ねているので(というかプールを兼ねているという方が正しいが)正直気持ち良く入れる感じではない。
まず水に入る段階で最初の勇気が試される。
釣り堀だけあって中はコケだらけで魚の匂いがプンプンしてくる。
その中に入るのはなかなかの勇気が必要だ。
水に入った次に必要な勇気は頭をつけて水の中で目を開けること。
何度もいうが、ここは釣り堀なのだ。
魚ならまだしも子供達は人間だ。
想像してみればわかるが、要は釣り堀に裸になって入り、更には目を開けて水の中を泳ぐのだ。
しかし子供達は泳ぎたい一心で勇気を出して目を開けて泳いでいた。
泳いだ後は体からプールと同じ匂いがしてくる。
シャワーがあったのか定かではないが、珍しい夏の風物詩だった。
この釣り堀兼プールの近くにザリガニや小魚がとれる場所があったが、魚が流出していたようで、大きめの魚も見かけることがあった。
子供達は小さな網を片手に小道を進む。
時にはズボンをまくって水の中に入り、主にザリガニをとっていた。
川の中にある石をどけるとザリガニがぴょーんと出て来る。
それをすかさず網ですくうのだ。
時にはそーっと近づいて手でとることもある。
川の中を良く見ていると、一箇所だけ水が湧き出てる所があり、かなり綺麗に見えるので、この水は飲めるのではないか?などと子供達は思った。
暑い日など、どうしようもない時は飲んだとか飲まなかったとか。
ザリガニの産卵の時期になると、お腹に沢山の卵を抱えたザリガニもとれる。
オスとメスに関わらず子供達はザリガニをとって遊んでいた。
最近ザリガニをとる時は網でとったり手で捕まえたりするよりも、棒などに糸をつけてスルメイカなどつけて釣る光景を目にする。
ここでは手で捕まえるか網ですくうのが主流で釣ることはなかった。
時にはとったザリガニを家に持ち帰ってお母さんに怒られるパターンも存在した。
お母さんからするとこんなもの持って帰って来てどうするの?
という感じなのだろう。
ザリガニは女性には分からない男のロマンが詰まっているのである。
男の子なら誰しもザリガニに興味を持つ時期があるだろう。
クワガタやカブトムシと並んで、ザリガニとりは男の子のたしなむ遊びとして以前から存在していたのである。
しかし、ザリガニを家で飼うのは難しく、水槽の水を入れ替えても所詮は小さな水槽なので1週間程で全滅の憂き目にあう。
なのでいつしか家に持って帰ることはなくなる。
子供達はやがて成長し、この場所の存在すら忘れてしまう。
子供達が足しげく通った不思議な場所。
夏の終わりと共にその思い出も、また心の奥へとしまいこんでしまうことだろう。