以前名古屋に居た時大雨が降った。
終業前に総務から雨が酷くなるので早目に帰るようアナウンスはあった。
しかし大したことはないだろうとタカをくくっていた。
19時過ぎにどうやら本当にヤバそうなので、仕事を終わらせて帰途に着く。
地下鉄で最寄り駅に着きバスを待っていると、いつまで経っても来ない。
30分程待つとようやくバスがきた。
途中バスのドアから水が入って来る。
これはヤバいと思いながらバスが自宅マンションまで後は橋を渡るだけの所まで来ると、渡らず別の橋を渡ることになった。
そして橋まで来ると渡らずに手前で止まる。
しばらくすると消防の人が来て、川が氾濫水位近くまで上がっているので、バスの中で待機するよう言われる。
そのまま23時くらいまでバスの中で待っていると、また消防の人が来て、川が氾濫する可能性が高いので、バスから降りてどこでもいいのでこの辺のマンションの高い所に避難するよう言われる。
降りてすぐ前のマンションに他の乗客と共に避難した。
マンションの中に入れる訳ではないので、階段の踊り場で傘をさして座る。
隣に座っていた人と避難民ですね…と話していた。
その状態は朝の5時くらいまで続いた。
途中どこから来たのか、ロープで連結した沢山の人達が何処かに避難する姿もあった。
5時を過ぎた頃、下から消防の人が水が引いたので近くの小学校の体育館に避難するようメガホンで呼びかける。
指示に従い体育館へ。
何もない体育館でしばし待機してると、乾パンが配られる。
不思議なもので昨日の夜から食べてないのに乾パンがまずくて食べられない。
気付かないうちにかなり緊張感が高まっていたのだろう。
ラジオもない状態でしばらく待機。
7時過ぎにようやく自宅に帰れることになり、体育館から出る。
途中家の中から泥水を掻き出す姿をみて、かなりの被害状況だったことが分かった。
橋の向こうには自宅マンションがある。
橋を渡り終えてようやく着くかと思ったその時、自分の目を疑った。
橋の終わりから自宅までの距離150mくらい。
見渡す限りの、水、水、水。
そこはまるで海のよう。
信号機は斜めに傾き、黄色が点滅している。
道路標識は一番上まで水の中に沈んでいる。
駐車場に自分の車の姿はない。
しばし呆然。
周りでは、駆けつけた近くにある工場の人達が絶望している。既に保険会社に携帯で連絡している人も居る。
自分の携帯は既にバッテリーはない。
昨晩課長と話していて、酔った課長が泳いで帰れと冗談を言っていたことを思い出していた。
時間は8時を回っている。
こんな状態では会社に行けない。
少し離れたコンビニで会社に電話して状況を伝えて会社を休むことにした。
時間が経つにつれて心配の声が聞こえてくる。
周りには沢山の帰宅難民。
消防に加えて自衛隊も来たが、いかんせん人数が少な過ぎる。
来たのはたった2人の自衛隊員と消防の人2人程。
帰りたいと誰かが自衛隊員に訴えるも、却下された。
自衛隊員はエンジン付きゴムボートで色々なところに行っている様子。
時折自宅が被災したと思われる家族がボートに乗って運ばれてくる。
既に時間は12時を回ってる。
もういい加減この状態はないだろうと思い、自分も自衛隊員に被災者を救出する時にあのマンションに住んでるので、ボートで送ってくれと頼むが被災者優先と断られる。
気付くといつの間にNHKが取材に来てる。
被災者が運ばれてくると、リポーターが被災者にマイクを向け、カメラマンが撮影している。
テレビカメラの角度的に自分が映るので、さしていた傘で隠した。
その後どうやらテレビを観て知ったのだろうか、続々と善意の方々がボートを持って駆けつけて来た。
その中でそろそろいいだろうととあるカヌーを持った方々に、マンションがすぐ近くのあのマンションなので送ってくれるよう頼むと了承してくれた。
カヌーに乗って自宅に帰るという不思議な状態。
一階は完全に水没しているので、自転車置き場の屋根につけてもらい、カヌーから踊り場に飛び移りマンションに入る。
時計を見ると14時30分を過ぎていた。
どうやら水道やガス、電気は使える。
遅い昼飯を食べながらテレビを観ていると、傘をさして全身を隠した自分が映っていた。
後になって判明したのは、2年程前に以前あった水害の教訓から新設したポンプ場の、ポンプのスイッチの位置が低く水没して使えなかったことだった。
お話しにならないお粗末な対策。
ポンプが動かないせいで、結局その後3日間マンションの前から水が引くことはなかった。当然会社には行けない。
水害はかなり広範囲たったため、会社の人の中には自宅が完全に水没して全て台無しなった人や自分と同じく車が水没した人などが居た。
水が引いた後の自分の車。泥だらけで使い物にはならない。
結局車は新たに購入。
ホンダのアコードワゴン。釣りに使える。
ホンダのディーラーから聞いたが、皮肉なものでこの水害でホンダの新車の売り上げがこの月に首位になったらしい。
そしてその後判明した事実。
自宅マンションのある場所は、昔の遊水池で大雨が降った時、他の家に影響が出ないよう低くなっていて、水が溜まるようになっていた。
人生で最初で恐らく最後の被災者の経験。
もう二度と川の近くには住むことはないだろう。