朝3時半に目覚め、いつもの迷彩Tシャツに着替えてやることを済ますと、真っ暗な静寂の中タックルを持って駐車場へ向かう。まだ誰も起きてない。
前日の夜にお気に入りの竿(ロッド)5本とルアーなどのタックル一式は準備してある。ロッドは全てメガバス製だ。
製作者であり社長でもある、カリスマ社長の伊東由樹曰く、「ロッドをつまみに酒を楽しめる」、美しくカッコいいロッド。
駐車場から車を出して、アコードワゴンの後ろからロッドなどのタックルを積む。
車の中にはロッドをかけるロッドホルダーを搭載しているので、5本とも車の天井に物干し竿にかけるように入れられる。
エンジンをかけ車を走らせる。
ハンドルを握りながら今日はどこのポイントに最初に行くか考えている。
道路にはまだ車は殆ど走っていない。
途中いつものコンビニに寄り、お決まりのハムサンドとボルビックを買う。
今日はやはり、ビッグサイズを連発出来る例のハニースポットから攻めよう。
最初は空いてた道路も途中幹線道路に入ると大型トラックなどで少しだけ混んでくる。
まだ車のヘッドライトは点灯している。
幹線道路から脇道へ入り、一車線の道を走って行く。
ハンドルを握る自分の心はいつものように穏やかである。
一面田んぼの景色に変わり、刈り入れ前の青々とした稲穂が暗闇の中に広がっている。
更に細い道に入るとゆっくり慎重に砂利道を進んで行く。
車を道路の端に寄せて止める。
ほとんど車は通らない。
まずはロッドを2本下ろし、このポイントで必要なルアーなどのタックル一式を入れた大きなウエストバッグを腰にかける。
ポイントまでは歩いて5分程。まだ暗い中を静かに歩いて行く。
途中、いつものスズメバチに遭遇するポイントで襲来に備える。
刺すことはないがすぐ目の前にホバリングするので困る。
迷彩Tシャツを着るのはこのためである。なるべくスズメバチを刺激しないようにしている。
今日は大丈夫のようだ。
ポイントに到着。
既に殆ど準備は整っているので、ルアーをセレクトしてラインに結ぶだけである。
真夏のトップシーズンで、ここは最高のハニースポットなので、まずはトップウォーター(水面上で動かすルアー)でスタートする。
狭い小場所なので遠投は出来ない。軽く投げルアーを着水させる。
まずはメガバスのDog-X Jr.で水面をドッグウォークさせて誘う。
小気味良くあたかも犬が歩くように頭を左右に振り水面をゆっくりと動かすことができる。
辺りはようやく日の出と共に薄っすらと明るくなって来た。
3投目、1m程引いて来るとガボンという音と共にバスがルアーに食らいつく。
その瞬間、ロッドを大きく体ごと仰け反らせ合わせる。
ロッドの先から途中の部分まで大きく曲がり、強いヒキと重さを味わいながらバスとの格闘が始まる。
バスは体を左右に振り、水面下へと潜ろうとする。
途中エラ洗いと呼ばれる頭を左右に振りながら水面からジャンプして体をくねらせルアーを外そうとする。
それをロッドを下に向け、動きを封じながらジリジリとバスを岸へと引き寄せて来る。
ラインはかなり太くしてあり、ロッドは何せメガバスロッド。デカバスとのやり取りも余裕である。
やがてバスの口を水面まで出すことができ、バスとの格闘はフィナーレを迎える。
手元まで後10センチ。バスの大きな魚体が目の前に横たわっている。
とうとうデカバスを手中に収める瞬間が来た。推定50センチを超える魚体が見える。
最初から幸先がいい。いきなりの50アップ。バス釣りの世界では50アップは1つの目安で、これが1日のバス釣りの中で釣れればその日はもう万々歳。もうその日はやめて帰っても良いくらいだ。
1つの勲章と言っても過言ではないだろう。
「ヨシ!」と、口に手を入れてついにランディング(完全に手中に収める)だと思ったその瞬間、バスが突然暴れ出しジャンプ。
唖然としている自分の手元にはバスはいない。
アングラーの手元に来たその一瞬のチャンスを狙って、老獪なバスは最後の力を振り絞り、ルアーを外して逃げ去ったのである。
しばし呆然。たった今まで50アップのバスが目の前にいたのである。
悔しさと共に後悔の念に駆られる。
そう、やってしまったのだ。
バスは最後の瞬間まで気が抜けない。それを忘れてランディングしたつもりになっていた。
ある意味一番やってはいけない行為。しかも相手は50アップ。
釣れていただけに後悔の念の大きさはハンパないものがある。
しばし昇る朝日に目を向けながら時が過ぎていく。
気を取直して次のキャストへ。その前にルアーとロッドをチェンジ。ルアーはメガバスのPOP-X。
POP-Xで家が建つと言われた、いつどの店に行っても見ることすら出来ず、店に出した瞬間に売れて無くなる、いつも入荷未定の伝説の釣れるルアーである。
自分は基本、ロッドもルアーもほぼ全てメガバス製で固めるメガバスフリーク。要はメガバスの大ファンだ。
ロッドはPOP-X専用に設計されたと言っても過言ではないF2-66X。パワーフォース2という要はしなやかで、6フィート6インチのトップウォータープラグ(水面上に浮き、動かすルアー)を操るにはジャストフィットするロッド。
第一投目。ロッドの先を小気味良くチョンチョンと動かすと、それに合わせてPOP-Xがお尻をフリフリ、チュピという音を出し、それが波動となって水面下に潜むバスにアピールする。
1メートル程引いて来たその刹那。ガボンっという音と共にルアーが消える。
即座にロッドを大きく体ごと仰け反らせながら合わせる。
ズンとした重みがロッドを持つ手に伝わってくる。
それと同時に重みが左右に振られるように動いてバスが逃れようとしていることが分かる。
この重み、かなりのデカバスである。恐らく50アップは間違いないだろう。
期待に胸を膨らませながら、バスとの格闘が始まる。
大きな魚体をくねらせジャンプし、水面下へ逃げようとあがくバス。
更にアングラーから逃げようと再び魚体をくねらせジャンプする。今度は間違いなくランディングするだろう。
こうしてバスとの戦いは再び始まり、やがて終焉へと近づいていく。
北陸でバスと共に過ごした4年間。目を閉じればあの光景が蘇る。思い出はいつも心の中にある。
※この物語は全て自分の体験を基に作成したほぼ脚色無しの実話です。